AmazonではPower Pointを(ほぼ)使用しないことをご存知ですか?Amazonの創業者でCEOのジェフベゾスは、社内文書をPower Pointの代わりにA4サイズの1ページャーまたは6ページャーで収めることを推奨しています。なぜPower Pointではダメなのでしょうか?今回は噂の発端となった、ジェフベゾスが株主にあてた手紙の内容を引用しながら紹介していきます。
目次
ジェフベゾスが語る“Power Point禁止”の理由
プレゼンテーションといえばPower Point、というイメージがついた今日ですが、Power Pointを使わないとなると、Amazonではどのようにしてプレゼンが行われているのでしょうか。2018年4月にジェフから株主に当てた手紙にはこのように書いています。
※手紙の全文はこちらから確認できます。
(原文)
We don’t do PowerPoint (or any other slide-oriented) presentations at Amazon. Instead, we write narratively structured six-page memos. We silently read one at the beginning of each meeting in a kind of “study hall.” Not surprisingly, the quality of these memos varies widely.
(日本語訳)
AmazonではPower Pointを使ったプレゼンテーション(あるいはほかのスライド形式のもの)を行いません。その代わりに、話術的に構成された6ページのメモを書きます。まるで自習室にいるかのように、各ミーティングの冒頭でそのメモを静かに読みます。
なぜ、6ページのメモが大事なのか。かねてからジェフはPower Pointを使用を推奨していませんでしが、2004年に彼のチームに向けて送信されたメールには、その理由がこのように記されています。
メモ
※narrative: [名詞]物語、文学、説話、話術、[形容詞]物語体の
※narratively: [副詞]物語的に、話術的に
(原文)
The reason writing a ‘good’ four page memo is harder than ‘writing’ a 20-page PowerPoint is because the narrative structure of a good memo forces better thought and better understanding of what’s more important than what.
(日本語)
なぜ20ページのPower Point資料を作るよりも4ページの"良い"メモを書くことのほうが難しいかというと、話術的な構造の良いメモを書くことは、何が大事なものなのかをより良く考え、より良く理解せざるを得ないからです。
一般的にPower Pointの資料(スライド)は、要点のみを記載するなどシンプルなものが良いとされています。しかし、あとから資料を読み返すと詳細が分からないために、資料だけでは内容を正しく理解できないというデメリットがあります。ここでは "4 page memo" とされていますが、このようないわゆるAmazon流の社内文書(1ページャーや6ページャー)は ”narrative(話術的な)” と呼ばれる詳細な構造となっているため、資料の情報量が高くなると同時にプレゼンしたい内容自体もより詳細まで整えられたものになると考えられています。
ではこれらのAmazon流の社内文書はどのような構成なのでしょうか?
Amazon流社内文書:1ページャー・6ページャーの書き方
ここからは元Amazon Businessの事業部長である星健一さんが、日刊SPA!のインタビューで紹介していた内容を引用しながら説明していきます。
1ページャーの書き方
1ページャーはその名の通り、WordのA4サイズ1枚でまとめた文書のことを指します。基本的に裏(2ページ目)は使いません。
Progress report(経過報告)の場合
- Introduction(序論、まとめ、結論)
- Overview of Plan(プランの概要)
- Review of Progress(進捗状況)
- Changes in Plan Since Last Update(前回の報告からの変更、変化)
- Overview of Risks(リスクの概要)
- Next Steps(次のステップ)
1ページャーで最も重要なことは、冒頭に ”結論” を持ってくることです。また、このあとに何をするのか(6. Next Steps)を明記することも非常に重要です。上司に報告することが最終的な目的ではありませんから、現状を把握した上で次に何をするべきなのかまで考えておきましょう。1ページャーはプロジェクトワークにおいてよく使われます。プロジェクトワークについては別記事で紹介しています。
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6ページャーの書き方
6ページャーは大規模なプロジェクト提案などで使用されます。
Project proposal(プロジェクト提案)の場合
Part 1 : Press Release 1 pager(プレスリリース1ページャー)
Part 2 : Main Document 6 pager (メインドキュメント6ページャー)
- Introduction(序論、まとめ、結論)
- Customer Need(顧客のニーズ)
- Market Opportunity (マーケットのオポチュニティー)
- Business Case (ビジネスケース)
- Risks (リスク)
- Estimate of Effort (概算の開発期間)
- Timeline(ローンチスケジュール)
- Resources Required(必要なリソース)
Part 3:Q&A(想定問答集)
Part 4:Appendices (添付資料)
Part 5:Financial Model (財務モデル、PL損益計算表の試算)
何かを始める前にこのような文書を書くという文化は、AmazonのWorking Backwards(お客様を起点として考える)という考え方に基づいています。何かサービスを思いついたら、まず先にプレスリリースを書いてみる、というものです。プレスリリースを書くことでお客様にとってどれくらい魅力的なサービスかどうかを具体的に考えることができます。Working Backwardsについては別記事でも紹介しているので、参考にしてみてくださいね。
より詳細にAmazonの文化について学びたい方は、星健一さんの本もオススメです。
スピードを重視する会社でも6ページには時間をかけるべき理由
Amazonは急速に成長している企業ですが、その理由の一つはスピード感を重視しているからと言われています。しかし、すべての工程をスピーディに行うわけではありません。ジェフは "narratives" を完成させるには時間をかけ何度も修正することが必要だと言っています。こちらも冒頭で引用した株主あての手紙の内容を引用します。
(原文)
Often, when a memo isn’t great, it’s not the writer’s inability to recognize the high standard, but instead a wrong expectation on scope: they mistakenly believe a high-standards, six-page memo can be written in one or two days or even a few hours, when really it might take a week or more!
(日本語)
メモの出来が悪いとき、たいていの場合は書き手が高い水準を理解できていないからではないです。”スコープ”について誤った解釈をしているのです。高い水準について間違った理解をすると、本来なら1週間かそれ以上かかるはずなのに、6ページメモが1日か2日、または数時間で書けるものだと勘違いするのです。
ジェフベゾスがいうには、6ページャーの資料を完成させるのに最低でも一週間かかるのが普通だそうです。
(原文)
The great memos are written and re-written, shared with colleagues who are asked to improve the work, set aside for a couple of days, and then edited again with a fresh mind.
(日本語訳)
素晴らしいメモは何度も書き直され、より良いものにするよう指示された同僚たちに共有され、数日ほど時間をあけてから新鮮な頭脳で再度修正されるのです。
また、6ページャーの完成にいたるまでには同僚たちのチェックも必要だとしています。
まとめ
ココがポイント
- AmazonではPower Pointの代わりに、1ページャー(6ページャー)が推奨されている
- その理由は、文書だけですべての情報を把握できる資料が効率的だから
- 1ページャーでは結論を冒頭に書き、次の行動についての記載を忘れない
- 6ページャーは複数人によって1週間以上かけて完成される
いかがでしたか?AmazonではあまりPower Pointを使わない、という記事でしたが、Power Pointが劣っているというわけではありません。会議のような話し合いの場面に1ページャー(6ページャー)は適していますが、発表や紹介の場面ではPower Pointの方が適しています。適材適所で両方を使っていけるといいですね。
この記事を書いた人:おまち